2007 |
08,23 |
甲子園見て居てもたってもいられず、久々のSSです。
まるマのムラケンズです。
まるマのムラケンズです。
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けして夏の暑さだけではない熱が、球場を包む。
様々な人のそれぞれの想いが歓声となり、祈りとなり、注がれる。
マウンドでピッチャーが構える。キャッチャーのサインに、頷く。
グラブの中で球をぎゅ、っと握り、振りかぶる。
息を呑む。
放たれた球は、斜めに滑りながら、キャッチャーのミットに納まった。
バッドは、空を切った。
一瞬の沈黙。
そして、変わる、空気。
沸き起こるどよめき。
ピッチャーの元へ駆け寄るチームメイトたち。
マウンドで突き上げる人差し指。
その隅で、悔しそうに唇を引き結び、けれど一瞬で何かを吹っ切ったような顔になる、ラストバッター。
残暑厳しい夏の空は、青く青く、澄んでいた。
「・・・・・・・・・終わったな」
「だねぇ」
食い入るようにTVを見つめる有利の横で、村田は気のない返事をした。
有利は一瞬だけ村田の方を振り返り、キッと睨んだ。そしてすぐにTVに顔を戻す。
画面では、優勝校の喜びの表情と、敗れた準優勝校の涙が交互に映し出されていた。
「お前それでも高校球児かよ!」
「草野球チームのマネージャーではあるけど、僕は別に球児じゃないよ渋谷」
そもそもサッカー派だし、と続いた村田の言葉は、有利の耳には届かない。
お盆を過ぎ、宿題が終わらないと泣きついてきた友人宅を訪ねてみれば、山積みのノートと教科書、その他プリントを放り出して、彼はTVに、正確に言えば高校野球に釘付けだった。
呼び出されたまま2時間以上も放置されていた村田にしてみれば、溜め息のひとつも出るというものだ。
むしろ怒って帰ったりしなかったことを褒めてほしい。
(・・・まぁ、渋谷の野球好きは分かってたけどね・・・)
怒りよりも先に呆れてしまったというのが、正直なところだ。
「あー・・・今年も夏が終わっちゃったなぁ・・・」
ようやく画面から少し離れ、有利が呟く。
「大丈夫だよ渋谷。君の夏はこんなに残ってるじゃない」
机の上に放置された宿題の山を指して村田が笑う。
「・・・俺は普通の高校生。球児なら誰もが1度は夢見る甲子園は、所詮夢でしかないのか・・・」
がっくりと肩を落とした有利は、溜め息と同時に吐き出す。そしてゆるゆると緩慢な動作で机に向かう。
そんな有利を横目で眺めつつ、何とはなしにTVの音を拾う。
この夏の戦いを振り返る、アナウンサーが喋っていた。
「なぁ村田。幸せってなんだろうな」
「突然何言い出すんだよ」
困ったように笑う村田。
有利は、手にしたものの、芯すら出していないシャーペンをクルクルと回しながら、続ける。
「俺は甲子園なんて夢のまた夢だからさ、甲子園に出れただけで幸せだろうって思うんだけど。実際甲子園出た奴らは、負けて悔しくて涙流すだろ。大事なとこでエラーしちゃって、それが決勝点になったりしたら悔しい思い出の場所になっちゃうだろ」
「・・・何が言いたいんだよ渋谷は?」
「だからさ。甲子園出れる奴は限られてるけど、そこで優勝するなんて全国で1校だけでさ。負けたら終わりって、そこに感動があったりするんだけど、じゃあ幸せはどこにあるんだろうとか、考えちゃうだろ」
「じゃあ聞くけどさ。渋谷は野球やれて幸せじゃないの?」
「・・・・・・そりゃ」
少し沈黙した後、深く澄んだ漆黒の瞳を真っ直ぐに向けて、有利は頷いた。
村田はその表情を見た後、口端をほんの少し持ち上げる。
「そういうものだと思うよ」
「へ?」
「・・・月並みな言葉だけど。幸せなんて、誰かが測るものじゃないんじゃないかな」
甲子園に出られなかった者にとっては、出場出来た者を幸せだと思う。
そこで負けた者は、勝ち進んだ者を幸せだと思う。
そして1度も負けなかった者を一番の幸せものだと。
けれど。
野球すら出来ない者も居るし、優勝出来なかったからといって不幸だと言い切るのはあまりに傲慢だ。
「何が幸せなのかなんて、人それぞれだし、人の立場には、必ず逆の存在が居る。大事なのは、その逆の立場の人に恥ずかしくない生き方をすることじゃないかな」
「・・・・・・そんな、当たり前な」
「当たり前なこと聞いてきたのは誰だよ?」
「すみません俺です」
気恥ずかしそうに目線を逸らした有利に、村田は声をあげて笑った。
「なぁ村田」
「何?」
「甲子園っていうのはさ、憧れの、夢の結晶の場所だけどさ。夢の始まりでもあるんだよな」
「・・・・・・へぇ?」
「高校野球見てさ、自分も絶対ここに行くんだって決意する小学生が居たりさ。甲子園でプレイして、高校野球が終わって、それから未来へ向かって行ったりするし。・・・・・・やっぱ聖地だよ」
柔らかく笑う有利に、「じゃあ渋谷も目指せばいいじゃない」と零しそうになった言葉を村田は飲み込んだ。
夢は簡単に叶わないから夢なのだと、村田も分かっている。
けれど。
「渋谷」
「ん?」
これだけは、伝えたい。
「僕は幸せだよ」
君に会えて。
それだけで。
村田の胸の内を、有利は知る由もなく、一度目を見開いた後、
「じゃあまずはチームで1勝して、小さな幸せ積み重ねていくか!」
と言って拳を握っていた。
「『じゃあ』がどこにかかってんのか分からないよ渋谷」
そう言った村田は、敵わないといった表情で笑っていた。
外はまだまだ暑く、空はどこまでも青かった。
<了>
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勢いまかせの文章ですみませんでしたorz
なんだ何が言いたかったんだ私。
とりあえず甲子園は素晴らしい場所でした夏をありがとう・・・!
けして夏の暑さだけではない熱が、球場を包む。
様々な人のそれぞれの想いが歓声となり、祈りとなり、注がれる。
マウンドでピッチャーが構える。キャッチャーのサインに、頷く。
グラブの中で球をぎゅ、っと握り、振りかぶる。
息を呑む。
放たれた球は、斜めに滑りながら、キャッチャーのミットに納まった。
バッドは、空を切った。
一瞬の沈黙。
そして、変わる、空気。
沸き起こるどよめき。
ピッチャーの元へ駆け寄るチームメイトたち。
マウンドで突き上げる人差し指。
その隅で、悔しそうに唇を引き結び、けれど一瞬で何かを吹っ切ったような顔になる、ラストバッター。
残暑厳しい夏の空は、青く青く、澄んでいた。
「・・・・・・・・・終わったな」
「だねぇ」
食い入るようにTVを見つめる有利の横で、村田は気のない返事をした。
有利は一瞬だけ村田の方を振り返り、キッと睨んだ。そしてすぐにTVに顔を戻す。
画面では、優勝校の喜びの表情と、敗れた準優勝校の涙が交互に映し出されていた。
「お前それでも高校球児かよ!」
「草野球チームのマネージャーではあるけど、僕は別に球児じゃないよ渋谷」
そもそもサッカー派だし、と続いた村田の言葉は、有利の耳には届かない。
お盆を過ぎ、宿題が終わらないと泣きついてきた友人宅を訪ねてみれば、山積みのノートと教科書、その他プリントを放り出して、彼はTVに、正確に言えば高校野球に釘付けだった。
呼び出されたまま2時間以上も放置されていた村田にしてみれば、溜め息のひとつも出るというものだ。
むしろ怒って帰ったりしなかったことを褒めてほしい。
(・・・まぁ、渋谷の野球好きは分かってたけどね・・・)
怒りよりも先に呆れてしまったというのが、正直なところだ。
「あー・・・今年も夏が終わっちゃったなぁ・・・」
ようやく画面から少し離れ、有利が呟く。
「大丈夫だよ渋谷。君の夏はこんなに残ってるじゃない」
机の上に放置された宿題の山を指して村田が笑う。
「・・・俺は普通の高校生。球児なら誰もが1度は夢見る甲子園は、所詮夢でしかないのか・・・」
がっくりと肩を落とした有利は、溜め息と同時に吐き出す。そしてゆるゆると緩慢な動作で机に向かう。
そんな有利を横目で眺めつつ、何とはなしにTVの音を拾う。
この夏の戦いを振り返る、アナウンサーが喋っていた。
「なぁ村田。幸せってなんだろうな」
「突然何言い出すんだよ」
困ったように笑う村田。
有利は、手にしたものの、芯すら出していないシャーペンをクルクルと回しながら、続ける。
「俺は甲子園なんて夢のまた夢だからさ、甲子園に出れただけで幸せだろうって思うんだけど。実際甲子園出た奴らは、負けて悔しくて涙流すだろ。大事なとこでエラーしちゃって、それが決勝点になったりしたら悔しい思い出の場所になっちゃうだろ」
「・・・何が言いたいんだよ渋谷は?」
「だからさ。甲子園出れる奴は限られてるけど、そこで優勝するなんて全国で1校だけでさ。負けたら終わりって、そこに感動があったりするんだけど、じゃあ幸せはどこにあるんだろうとか、考えちゃうだろ」
「じゃあ聞くけどさ。渋谷は野球やれて幸せじゃないの?」
「・・・・・・そりゃ」
少し沈黙した後、深く澄んだ漆黒の瞳を真っ直ぐに向けて、有利は頷いた。
村田はその表情を見た後、口端をほんの少し持ち上げる。
「そういうものだと思うよ」
「へ?」
「・・・月並みな言葉だけど。幸せなんて、誰かが測るものじゃないんじゃないかな」
甲子園に出られなかった者にとっては、出場出来た者を幸せだと思う。
そこで負けた者は、勝ち進んだ者を幸せだと思う。
そして1度も負けなかった者を一番の幸せものだと。
けれど。
野球すら出来ない者も居るし、優勝出来なかったからといって不幸だと言い切るのはあまりに傲慢だ。
「何が幸せなのかなんて、人それぞれだし、人の立場には、必ず逆の存在が居る。大事なのは、その逆の立場の人に恥ずかしくない生き方をすることじゃないかな」
「・・・・・・そんな、当たり前な」
「当たり前なこと聞いてきたのは誰だよ?」
「すみません俺です」
気恥ずかしそうに目線を逸らした有利に、村田は声をあげて笑った。
「なぁ村田」
「何?」
「甲子園っていうのはさ、憧れの、夢の結晶の場所だけどさ。夢の始まりでもあるんだよな」
「・・・・・・へぇ?」
「高校野球見てさ、自分も絶対ここに行くんだって決意する小学生が居たりさ。甲子園でプレイして、高校野球が終わって、それから未来へ向かって行ったりするし。・・・・・・やっぱ聖地だよ」
柔らかく笑う有利に、「じゃあ渋谷も目指せばいいじゃない」と零しそうになった言葉を村田は飲み込んだ。
夢は簡単に叶わないから夢なのだと、村田も分かっている。
けれど。
「渋谷」
「ん?」
これだけは、伝えたい。
「僕は幸せだよ」
君に会えて。
それだけで。
村田の胸の内を、有利は知る由もなく、一度目を見開いた後、
「じゃあまずはチームで1勝して、小さな幸せ積み重ねていくか!」
と言って拳を握っていた。
「『じゃあ』がどこにかかってんのか分からないよ渋谷」
そう言った村田は、敵わないといった表情で笑っていた。
外はまだまだ暑く、空はどこまでも青かった。
<了>
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勢いまかせの文章ですみませんでしたorz
なんだ何が言いたかったんだ私。
とりあえず甲子園は素晴らしい場所でした夏をありがとう・・・!
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